滔々と流れる群青の山河に浮かぶ紅葉と、空に輝く金色の三日月が印象的な作品です。
この作品で「刹那の美」を表現したかったと画家は語っています。「草も木も、みんな人間と分け隔てなく尊び、自然を「生命の輝き」として精神化する。・・・波間に漂い、消えゆく真紅のもみじのはかない一瞬のきらめきに、私は祈りの気持ちを籠めながら、画面いっぱいに金箔を鏤めた。」
他方、水の流れは半円を重ねた古典的な青海波模様で、また草花が茂り白砂が敷き詰められたような岸辺は厳島神社の国宝《平家納経》にも見られる「料紙」という伝統的な技法で表現されていますが、画面からは現代的な情趣が感じられます。高い精神性と豊かな装飾性で錦秋の風物を昇華した逸品と言えるでしょう。