厳島神社での参拝を終えた帰路の途中、御手洗川に沿って柳小路を歩き、弥山の方を眺めると見えてくる光景です。
この深緑が眩しい小路には、かつて多くの神職が住まわれていました。通りを挟んで点在する棚守・上卿屋敷跡や粟島神社、野面積みの石垣は往時の街並みを伝えるもので、その道は大聖院へと続いています。この真言宗御室派(総本山仁和寺)の大本山は、806年に空海によって開山された関西屈指の名刹。そんな観音堂の大屋根や摩尼殿の仏塔からは、荘厳な趣が感じられるでしょう。
本作の取材のために初めて宮島を訪れた画家は、予想を遥かに超えた賑わいと混雑を抜け、偶然たどり着いた場所を絵にしたといいます。よく見ると消防栓・簾・街灯等も描かれていて写真のようですが、これらを画角に入れると本来の寺院は遠景で、いっそう小さく見えます。写生に基づきながらも街並みの遠近をギュッと凝縮し再構築することで大聖院の重厚さと存在感が増し、理想化された風景が表現されています。現地を訪ねて、実際の風景と比べてみてはいかがでしょうか。
(作家コメント)
取材で初めて訪れた安芸の宮島は、予想をはるかに上回る海外の方々と修学旅行の団体でにぎわっていました。そんな中、まっすぐに歩けないほど混雑している多くの場所を抜け、偶然たどり着いたこの滝小路は思いのほか静かで、周囲の風景も楽しみながら正面の大聖院に向ってゆっくり歩いていくことができました。本作ではその時に感じた雰囲気を、自分なりの方法で描くことを目指しました。