(作家コメント)
日本の四季、春夏秋冬の素晴らしさは、日本人をここまで育ててくれたものと思います。
私は康成先生から頂戴した最後の言葉を忘れることなく大切に心にしまいいつも制作に励んでまいりました。そして日々一期一会と思いながら龍子先生の教えを守り過ごしております。この作品の時も何度か写生に訪れた時のこと。幸いにも雪が珍しく降り始めたのです。有難うがいっぱい詰まった作品となり仕上げることが出来ました。

眩いばかりの金地を背景に木製の橋と群生するカキツバタが描かれています。
本作は、京都の上賀茂神社の摂社 大田神社にある「大田ノ沢かきつばた群落」(天然記念物)に取材した屏風です。我が国のカキツバタを描いた作品と言えば、尾形光琳の国宝《燕子花図》やメトロポリタン所蔵の《八橋図》が有名です。それらの名作をオマージュしながらも画伯独自の解釈と表現が盛り込まれており、その織りなす光景は活力に満ちていると言えるでしょう。これまでの研鑽の集大成と呼ぶにふさわしい大作です。
他方、タイトルに目を移せば、過去の名作を昇華するだけに留まらず、未来へとつないでいこうという想いを感じずにはいられません。

降り積もる雪の中で美しい花を咲かせる寒牡丹が描かれています。

牡丹は、もともと初夏の花ですが、寒牡丹は冬にも開花する品種です。葉は小さく、数も少ないですが、その分大輪の花が際立ちます。その生命力を表すかのように、花は大きく厚みがあり、それを支える茎は太く力強く描かれ、冬の寒さの中で凛とした存在感を放っています。

また、花に惹きつけられたかのように描かれている鳥はジョウビタキです。ジョウビタキは、毎年越冬するために日本に渡り、主に虫や木の実を主食としています。作品では、寒牡丹の周りに集まる虫を探しているのでしょうか。寒さを懸命に生き抜いていく生き物たちからは、いっそう懸命さや尊さが感じられることでしょう。