柳といえば、春の季語として知られていますが、青々とした葉をつけることで夏柳にかわります。
その柳を背景に、カワセミが枝の上から水面をじっと見つめています。獲物を見つけたのでしょうか。狙いを定めて前傾姿勢をとり、今にも飛び立とうとしています。
カワセミは漢字で「翡翠」とも表記されます。「翡翠」にはヒスイという読み方もあり、この鳥の色に似ていることから、宝石や色の名前に用いられるようになりました。
2つの読み方があるためでしょうか。背景は、カワセミの姿勢に合わせてヒスイ色のグラデーションがかけられており、青みが深まった夏柳と共に、全体がヒスイ色でまとめ上げられています。

睡蓮の葉の下を気ままに泳ぐ小魚が描かれています。あえてぼかして塗られた睡蓮の葉や淡く透明感のある色使いは、どこかで見た記憶をほのかに思い起こさせるかのような、懐かしく夢幻的な印象を与えます。
作品名である「うたかた」とは、水面に浮かぶ泡、またはその泡のように儚く消えやすいものを表す言葉です。作者は、この言葉が表すような、普段視界に入っていても記憶に残らない、身の回りの出来事に着目し、作品を描き続けています。この作品はまさにそんな身近な風景の刹那を描いた作品です。

雪の結晶は、様々な形があり、二つとして同じ形のものはないとされています。綺麗に整った結晶は美しく、日本でも江戸時代後期には雪の結晶を着物や小物のデザインに取り入れた「雪華模様」という和柄が流行しました。
この作品では、雪の結晶が金泥やプラチナ泥、胡粉を用いて描かれており、雪の冷たい質感が表現されているといえるでしょう。作者はこの金泥等を「起き上げ」という、盛り上げて立体的にする技法を用い、それをメノウ棒で磨くことで輝きを出しています。古くから親しまれている伝統的な模様を日本画として新たな形に昇華させた佳作です。

睡蓮と蓮は、仏教では仏の悟りを意味する花とされています。泥の中に根を張り、水上に美しい花を咲かせる姿が、煩悩や汚れに染まらない清らかな精神に通ずるといいます。

揺らめく水面に描かれているのは一輪の睡蓮です。整った花弁は白と桃色で淡く描かれ、純潔な印象を与えます。花の中央には、悟りの輝きを思わせるかのような橙色の葯。あえて水を白で表現することで、作品全体の清浄さをより引き立てているのです。高潔な空気をまとった優美な逸品といえるでしょう。