金箔を貼った扇面に白梅が描かれています。
 五弁の花びらや蕾は、いわゆる「光琳梅」で意匠性が高く、枝は「たらし込み」という日本画の技法で表現されています。金地に花、蕾、枝とシンプルな構成でありながら伝統的な技巧が凝らされており、小品ながら花言葉通りの気品に満ちた佳作です。
 ところで、一般的に、雌しべの有るものと無いものが梅の花にはあるそうで、未成熟なものが多いことに起因するとのこと。そう言われてみると、本作でもほとんど雌しべがありません。この単純化された「光琳梅」も、丹念に写生をした結果が何気なく反映されているのかもしれません。

牡丹の大輪が描かれた茶碗です。乳白色の地に淡いピンク色の花びらと青味のある葉が映え、春の柔らかな陽光に照らされているかのようなたたずまいを見せてくれます。高台部分には釉薬がかかっておらず素焼のままの表情を見ることができますが、それがかえって、ふっくらとした茶碗の緩やかな曲線と淡い色使いを引き立てることとなり、上品な雰囲気を醸し出していると言えるでしょう。

器体の貫入が「ひびの入った卵の殻」のように見える景色を、「蛋殻磁」と言います。古くは中国の景徳鎮窯で多用された技法であり、同窯ではさらに器体を薄く軽く作られていました。しかし波山の「蛋殻磁」は厚みがあり、どっしりとした存在感のあるものが多く見られます。一方で器形は、口縁から脚に向かう直線と曲線の様子が和装の「ハカマ」を連想させることから「袴腰」と呼ばれるもので、波山は特に直線部分が垂直になるように心血を注いだと言われています。

 葆光とは「光を包む」ことを意味する言葉で、波山作品を代表する技法の一つです。重要文化財に指定されている波山の《葆光彩磁珍果文花瓶》でも用いられています。
 本作では、白磁の器体にデザイン化された牡丹が連続して彫り込まれています。その花びらや茎、葉は優美な曲線を描き、百花の王の名に恥じない雅趣を醸し出しています。それら全体を覆うように施された葆光釉は、薄衣で覆ったようなしっとりとした柔らかな光を生み出し、いっそう品格が高められていると言えるでしょう。