本作では波の模様を背景に桃の花と実が描かれています。3本の枝を束ねるリボンは羽衣のように優美な趣をたたえており、側面には2匹の魚の絵付けが施されています。
 作品名の「延壽」には長寿を願い祝福する意味が込められています。それを波山は、安寧秩序が連綿と続くことを表す「青海波」、西王母に由来する吉祥文様であり理想郷を暗示する「仙果」、子孫繁栄や夫婦和合をほのめかす「双魚」で表現しました。他方「エンジュ」という名の植物があり、花言葉は「上品」「幸福」だといいます。
 「己の作品を鑑賞する人々の幸せを願った」という波山。本作は、そんな陶芸家の想いを卓越した技量で具象化した傑作です。

 柄香炉を手に持ったが聖徳太子(厩戸王)が眉を吊り上げ、伏し目がちに厳しい表情を浮かべています。
 587年に用明天皇が崩御しますが、本作では、病床に臥せる父親の快復を仏に祈願する青年の姿で表現されています。法隆寺伝来の古画等を範としながらも、一本の桜の木から彫り出された厳粛で凛としたたたずまいが印象的で、まるで生きているかのような写実性も作品の魅力であると言えるでしょう。
 ところで、柄香炉の鎮子に目を向けると獅子が象られています。獅子は狛犬と同一視されることも多く、古来、魔除けの神獣として親しまれてきました。その造形は重要文化財の《獅子鎮柄香炉》(奈良時代)を想起させ、その重文の柄の裏には「太子於岡本宮法花御講讃之香呂也」の刻書があります。時代考証にも真摯に取り組んだ作者の制作姿勢が垣間見える逸品と言えるでしょう。

 腕まくりをした男が橋の板を一枚二枚と外しています。その傍らでは、白緑の薄絹を頭からかぶった女性が上品なたたずまいで座り込んでいます。
 本作は菅原孝標女(1008~1059)『更級日記』の中の「竹芝寺」の一場面。
 平安の頃、東漢が御所の篝火役をしていました。ある時、故郷を懐かしむ男の独り言を御簾越しに聞いていた皇女が自分も見たいと仰り、故郷の武蔵国へ連れて行くようにせがみます。男はその願いを聞き入れ、共に故郷を目指すことに。その道中、瀬田の唐橋に差し掛かると、男は板を外して追手からの時間を3ヶ月も稼ぎ、後に二人は末永く添い遂げたといいます。
 川の流れや橋脚・橋板を最小限の筆遣いで表現し、またわずかな色彩でまとめ切っているところにおり、古径の技の冴えが感じられることでしょう。

 颯爽と雲に乗って現れた鬼。その眼下では、縁側では慌ただしく弓を準備する男と、顔を床に擦りつけるように体を丸くした女が描かれています。2人の服装は平安貴族風でありながら、草は伸び放題、雑然とした柵で囲まれた土壁に板瓦と、草庵の趣を呈しています。洛外の場景でしょうか。
 本作は、平安時代の『伊勢物語』の一場面を描いたもの。主人公は在原業平ではと言われています。
 「芥川」は古典的な題材で、想い人を連れ去った男が嵐を避けるため、芥川辺りのあばら家で女と雨宿りをしていたところ、鬼が現れ、想い人を食べ去ってしまうという話です。
 古径は、幾度となく同主題を緊張感漂う作品として描いていますが、本作からは、どこか飄々とした雰囲気が感じられます。鬼の襲来に忙しくする男女が描かれながらも、大きな口を空けてギョロメを向いた鬼は、どこか憎めない表情を浮かべているように見えることでしょう。

 作品名の「彩磁」は「上絵付けの色絵磁器とは異なり、上釉の下に文様を施した下絵付け」を表す言葉であり、「友禅染からヒント」を得て、釉薬に顔料と染料を使用したと言われています。
 反射光が眩しい白い器体に、松毬に蔦が巻き付いているかのような絵付けが施されていますが、それらはブドウの房、蔓、葉を意匠化したもので、多幸多産・子孫繁栄を象徴すると言われています。若い頃の波山は、往時のアールヌーボーの影響を強く受け、作品に反映しました。そのような影響を受けて生み出されたデザインは当初こそ写実的な描写でしたが、本作のように波山独自の文様へと昇華されて行ったのです。

 氷華磁とは、白磁の器体表面にびっしりと貫入が入った景色を、氷のヒビや華に見立てたことに由来します。中国では貫入のことを「氷列文」といい、波山もその呼称に倣ったのではないかと言われており、同時に昭和初期を代表する作風でもあります。
 中国の龍泉窯で作られた重要文化財指定の《青磁鳳凰耳花生》など、波山は若い頃に古陶磁の研究に尽力しました。本作は、その花生と同じ砧型に整形しつつ、鳳凰ではなく、鯉を象った耳で装飾されています。氷華磁を凍てついた滝の流れ、その滝を昇るように設えられた鯉。あたかもそれは登竜門をなぞらえたのかもしれません。

 香合とは御香を収納する蓋付きの小さな容器のこと。古くは茶道具あるいは仏具として使用されてきましたが、今日では置物や小物入れとしても重宝されています。
 他方、桃は古来より子孫繁栄の暗喩であり、桃源郷に由来する理想郷を想起させることもあり、別名「仙果」と呼ばれる吉兆のシンボルとして親しまれてきました。
 本作は、枝からもがれたばかりのような葉付きの桃を象ったものです。実の色は赤、葉と茎には青系の釉薬が施され、さらには葉をよく見ると虫食いの跡があり、写実的な様相を呈する佳作です。