弊社では、コレクションの中で80数点に上る古径の素描を所有しています。本作はその中の1点。素描コレクション中、最大のものです。牡丹の花弁、葉、枝、幹、支柱が、鉛筆で丁寧に描き込まれており、色の濃淡も丹念に描き出されています。
本作は、二曲一隻屏風の下書きではないかと考えられ、うっすらと方眼の線が引かれ、レイアウトを決定するのに緻密な計算がなされたことがうかがえます。大輪の花が咲き誇っているものの、そこはなかとなく安定感が漂っているところに、卓越した技量が垣間見えることでしょう。
他方、小林古径の絶筆は白い牡丹(小林古径記念美術館蔵)でした。そのことからも牡丹に対する古径の並みならぬ意気込みを感じられます。
作者は近年、母と子を題材とした作品を手掛け、卓越した人物表現で高い評価を得ています。
この《蓮華》は、蓮の花を持つ女性が描かれた作品です。沼池に美しい花を咲かせる蓮は、拈華微笑などの伝承でも知られるように、古くから仏教にゆかりがある花です。
蓮を持った女性の姿には観音様の面影を想起させ、凛とした表情や柔らかい指先の表現が秀逸です。
また作者は、2018年の個展のあいさつ文で、『大切な生命との別れを沢山経て、守りたいものでも「守れない」という事を知りました。だからこそ、命を包む優しさや温もりを描き続けていきたい』と語っていました。
作品から伝わる生命の尊さが魅力的な作品です。
なんと神々しい作品なのでしょうか。すやすやと眠る赤ん坊と、穏やかな表情で見守る母親が描かれています。その慈愛に満ちた眼差し、清らかな肌、赤ん坊を優しく包み込む様子は、まるで聖母のようです。出産や子育てを契機に、作者は人が生まれ、育ち、死んでゆく、繰り返される命の環に着目し、一瞬一瞬の輝きを昇華し続けてきました。この作品は、まさにその環の一瞬の輝きをとらえた崇高な作品と言えるでしょう。