腕まくりをした男が橋の板を一枚二枚と外しています。その傍らでは、白緑の薄絹を頭からかぶった女性が上品なたたずまいで座り込んでいます。
本作は菅原孝標女(1008~1059)『更級日記』の中の「竹芝寺」の一場面。
平安の頃、東漢が御所の篝火役をしていました。ある時、故郷を懐かしむ男の独り言を御簾越しに聞いていた皇女が自分も見たいと仰り、故郷の武蔵国へ連れて行くようにせがみます。男はその願いを聞き入れ、共に故郷を目指すことに。その道中、瀬田の唐橋に差し掛かると、男は板を外して追手からの時間を3ヶ月も稼ぎ、後に二人は末永く添い遂げたといいます。
川の流れや橋脚・橋板を最小限の筆遣いで表現し、またわずかな色彩でまとめ切っているところにおり、古径の技の冴えが感じられることでしょう。