花や樹木を得意とする画家は、現在の日本画壇をリードする人気作家の一人です。とりわけ桜の名手として知られており、ここでは、長野県上伊那郡箕輪町の中曽根集落で取材したヒガンザクラが描かれています。その呼び名は、かたわらの祝殿に祀られた権現様に由来し、樹齢1000年ともいわれる巨木は高さ15m・根本周囲6.7mにもなり、昭和42年(1967)に県の天然記念物に指定されました。
夜の帳を背景に、満開の桜は幻想的な美しさを醸し出し、緑の大地にどっしりと根づく古木の幹と対比させることで、小さな花片はいっそう可憐な趣を示しています。また辺りの暗さと舞い散る花びらのせいでしょうか、妖艶さや儚ささえ感じられることでしょう。一方、作品名の「花嵐」は「桜の咲く頃の強い風、またその風で花が散り乱れること」を意味します。桜を愛でながら、風に吹かれ、音に耳を澄まし、匂いを慈しむ。名木を前にした時の画家の感動のすべてを表現した傑作と言えるでしょう。