四季の移ろいに合わせて、池で泳ぐ鯉の姿を、5つの画面に描き出した大作です。向かって右から、晩春、初夏、残暑、秋、初冬の場景が描かれています。それぞれで鯉の優雅に姿が描かれている一方で、サクラ、ヨシ、スイレン、モミジ、枯れたヨシが季節感を醸し出しています。特に初冬の場面では、7匹の鯉が頭を摺り寄せ、放射状に集まる様を見せており、鯉の観察と写生を多く行ってきた画家ならではの表現かもしれません。
ノーベル文学賞を受賞した川端康成から、「美しい日本に折角生まれたのだから、あなたは日本の四季である春夏秋冬を英遠のテーマにしたら良いと思いますよ」との言葉を画家はたまわり、康成没後は遺言として画業に邁進してきたと言います。「季節ごとにめぐる自然の光彩は日本の詩情となり、心を慰め、花鳥風月と遊ぶ文化の特質をはぐくんでくれています」と、画家自ら語っているように、この《池心生生》は、その詩情と文化の特質が余すところ無く表現されている代表作と言えるでしょう。