颯爽と雲に乗って現れた鬼。その眼下では、縁側では慌ただしく弓を準備する男と、顔を床に擦りつけるように体を丸くした女が描かれています。2人の服装は平安貴族風でありながら、草は伸び放題、雑然とした柵で囲まれた土壁に板瓦と、草庵の趣を呈しています。洛外の場景でしょうか。
本作は、平安時代の『伊勢物語』の一場面を描いたもの。主人公は在原業平ではと言われています。
「芥川」は古典的な題材で、想い人を連れ去った男が嵐を避けるため、芥川辺りのあばら家で女と雨宿りをしていたところ、鬼が現れ、想い人を食べ去ってしまうという話です。
古径は、幾度となく同主題を緊張感漂う作品として描いていますが、本作からは、どこか飄々とした雰囲気が感じられます。鬼の襲来に忙しくする男女が描かれながらも、大きな口を空けてギョロメを向いた鬼は、どこか憎めない表情を浮かべているように見えることでしょう。