一枚の軒瓦の上で鳩が羽を休めています。羽の一枚一枚まで精密に表現されていて、また辺りの様子をうかがうように、後ろを振り返った瞬間は、あたかも生きているかのような趣で、写実性の際立った作品です。「鳩一羽で約一万六千本もの毛描きをして、一つ造るのに二、三日はかかる。ちょっと大きなものになると、ゆうに一週間はかかった」と言います。
また軒瓦を見てみると、蝶の模様が掘り込まれていることに気づきます。桓武平氏に由来するという蝶の家紋は、岡山藩池田氏にも見ることができ、世界遺産・姫路城の軒瓦にも見られます。
陶陽は、安土桃山時代に隆盛を極めた備前焼の「中興の祖」と呼ばれています。それは、この《備前瓦鳩香炉》のような細工物に優れた才能を示したことが契機となりました。この《備前瓦鳩香炉》は、そんな才能を感じさせる佳品です。