釉薬を用いない備前焼にあっても、土の味わいを残した肌が特徴的な作品です。底は起き上がり小法師のように丸く、茶釜としての機能美を備えつつ、ヒビの入り具合が景色となり、陶陽後期の作品の中でも侘び寂びを感じさせる味わい深い秀作です。作品名の釜の蓋を開けたときに、「老婆の口」に見えることに由来すると言います。
そのような陶陽の作陶姿勢は、非常に厳しいものであったといい、次のようなエピソードが残されています。
「土に対してはとくにやかましくいい、土をまたぎでもしようものなら”うちでは米つぶより土の方が大切だ”と叱り飛ばされたものだ。」