小袿を身にまとった女性が、一枝の桜を手にして顔に近づけ、花を愛でるような仕草を見せています。ここで
袖元には舞う蝶や藤の花といった季節を感じさせる柄が描かれており、四季を生活に取り込んでいた時代の風情が感じられますが、一方で、色彩は渋めに抑えられています。
この麗人は、小野小町を描いたものと言われています。「花の色は 移りにけり ないたづらに 我が身世にふる ながめせし間に」とは、小野小町が詠んだ和歌です。「桜の花はむなしく色褪せてしまった 春の長雨が降っている間に 私の容姿もすっかり衰えてしまった 生きていることのもの思いをしていた間に」という意味ですが、華やかな反面、もののあはれを感じさせる奥深い作品と言えるでしょう。