赤い縞模様の布の上に、二つの大きなサンポウカンと小ぶりなミカンが一つ描かれています。皮の表面は、薄い白緑の絵具で下地を整えた上に黄土色を塗り重ねることで、写実的に表現されています。そんな写実的な表現の一方で、周囲を縁取るように塗り残された素地は、光に照らし出されているような印象を生み、幻想的な趣をたたえています。また、中に浮かんでいるように見えながらも安定感があるのは、不等辺三角形をなす果実の配置と、布の直線・曲線とが絶妙に均衡を保っているからと言えるでしょう。
古径は、余計なものを排除した緻密な構成と厳格な描線で格調の高い作品を数多く遺し、昭和25年には文化勲章を受章しました。
この《木実》は、そんな古径円熟期の逸品です。さりげない赤と黄の組合せによって、季節の深まりが感じられるのも心にくい限りです。